エピジェネティクス用語集


エピジェネティクスに関する専門用語のうち、良く使用されるものを独自にまとめて解説を記載いたしました。知りたい文字の頭文字行・アルファベットの頭文字をクリックしてご覧ください。

エピジェネティクス
DNA配列の変化を伴わず、組織や細胞の種類に応じて異なり、細胞分裂後も継承される遺伝子発現の制御・維持の仕組みのこと。 エピジェネティクスを構成する代表的な機構がDNAメチル化ヒストン修飾で、これらの修飾はヌクレオソームやクロマチンの形成に影響を及ぼすことによって遺伝子の「スイッチ」の役割を果たし、発現の制御に関わっている。
エピトープ
抗原決定基とも呼ばれ、抗体が認識して結合する抗原の特定の構造単位のこと。6~10個のアミノ酸や5~8個の単糖の配列から成る。抗原分子は3次元立体構造を持つため、エピトープは抗原の立体構造に依存する場合もある(構造エピトープ)。立体構造に依存せず単純にアミノ酸配列に依存するエピトープを線状エピトープと呼ぶ。
クロマチン
遺伝情報をコードするゲノムDNAを、配列と構成を保持しながらコンパクトに折りたたみ収納するためのDNA・タンパク質複合体。ゲノムDNAは4種のヒストンタンパク質の回りに巻き付いてヌクレオソームを形成する。ヌクレオソームが数珠上に繋がり、さらにリンカーヒストンなどのタンパク質、RNAが結合してクロマチンが構築される。ヒストン修飾によりクロマチンヒストンとDNAの会合状態が変化し、転写活性が調節を受ける。
クロスリンク
ホルムアルデヒドなどの架橋剤を用いて、共有結合によって2つ以上の分子を化学的に連結させるプロセス。架橋。分子と分子を架橋して固定しサンプルを安定化させることより固定化(=fixation)と呼ぶ場合もある。
シーケンス
DNAを構成するヌクレオチドの結合順序(塩基配列)を決定すること。生物の遺伝情報はDNA上のATCGの4種類の塩基からなる配列で記述されており、これらは生命機構の解明に重要な情報であるため、その結合順序を決定する手法が数多く開発され、使用されている。
転写因子
DNAに特異的に結合するタンパク質の一群で、DNAの遺伝情報をRNAに転写する過程を促進・抑制する。ゲノムDNA上の特定の配列を認識し、転写因子単独、あるいは他のタンパク質と複合体を形成することによって機能する。転写因子には、転写開始前複合体の形成に関わるもの、転写開始点の上流(プロモーター)に結合して転写促進・抑制を行うもの、さらに促進・抑制のために複合体・二量体形成などの活性化を要するものなどがある。
バイサルファイト処理
DNAを亜硫酸水素塩と反応させ、DNA配列中のシトシン残基をウラシルに変換する処理。この時、5-メチルシトシン残基は亜硫酸水素塩に影響を受けないため、メチル化DNAを配列の違いとして検出することができる。
ヒストン
真核生物のクロマチンを構成するタンパク質でH1、H2A、H2、H3、H4の5種類が存在する。H2A、H2B、H3およびH4を2つずつ含む8量体はヒストンコアと呼ばれ、147塩基対のDNAがヒストン8量体のまわりに巻き付く構造のヌクレオソームを形成している。ヌクレオソームはさらに圧縮され、H1(リンカーヒストン)および非ヒストンタンパク質によってクロマチン繊維となり、全て合わさってクロマチンを構成する。
ヒストン修飾
ヒストンタンパク質のコアの構造領域に含まれないN末端・C末端側の領域(ヒストンテール)が受けるアセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化、シトルリン化などの様々な翻訳後修飾で、クロマチン構造を変化させ、転写因子によるアクセスを調節することによりエピジェネティックな遺伝子発現調節に関わっていると考えられている。多様なヒストン修飾をコンパクトに表記するため、「H3K4me3」のように、表記法が定められている。
プライマー
DNAポリメラーゼがDNAを合成する際に前駆体として必要となる短鎖DNA断片。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用した実験系では必須の試薬で、それぞれ実験対象の配列に応じたプライマーを合成して実験に供する。
B
bp (単位)
2本鎖DNAの長さの単位(bp)。base pair(塩基対)の略で、DNAは塩基間の水素結合によって2本鎖となるが、このとき水素結合で対合するアデニンとチミン(A-T)、およびグアニンとシトシン(G-C)のペアの数を示している。mRNAなどの1本鎖核酸の長さの単位はヌクレオチド(nt)。
C
CpGアイランド
脊椎動物にて見られる、DNAのシトシンとグアニンが隣り合う配列(CpGサイト)が集中して存在するゲノム上の部位で、少なくとも200塩基対(bp)の長さを持ち、GC含量が50%以上、存在するCpGの割合が60%以上とされる。CpGアイランドは、哺乳類の遺伝子のプロモーターの40%、ヒトの遺伝子のプロモーターの約70%を占め、遺伝子発現制御に重要な部位となっている。
ChIP
Chromatin immunoprecipitationの略称で、クロマチン免疫沈降法のこと。ChIPは、生細胞内でのタンパク質‐DNA間の相互作用を解析するための手法で、抗体を用いた免疫沈降法によってクロマチン転写因子などの特定のタンパク質についてゲノム上の相互作用部位を決定することができる。このことより、ヒストン修飾転写因子に対する抗体を用いてChIPを行うことで、遺伝子発現の調節に関する貴重な洞察を提供することが可能となる。
D
DNAメチル化
DNA中のシトシンのピリミジン環5位炭素原子にメチル基が付加修飾される化学反応で、CpGジヌクレオチド部位(CpGアイランド)で通常生じ、細胞分裂を経て受け継がれる。ゲノムDNAのメチル化それ自身が物理的に転写に関わるタンパク質の結合を妨げるほか、メチル化DNA結合タンパク質と結合してクロマチン制御因子や転写因子などを適切にリクルートすることにより転写抑制機能を果たしている。
F
FFPE
ホルマリン固定パラフィン包埋(Formalin-Fixed Paraffin-Embedded)の略。ホルマリンで固定した検体を脱水脱脂後パラフィンへと置換し包埋する処理のことで、病理診断を目的とした検査室で最も広く用いられている組織検体処理方法である。
I
Infinium Methylation EPIC array
Illumina®社の技術に基づく、マイクロアレイを用いたゲノムワイドのDNAメチル化解析技術。アレイ上に固定化されたDNAとサンプルDNAを相補させて検出するため、配列特異的な検出を定量的に行うことができる。
K
Kit
実験に必要な酵素・バッファー・試薬などを必要な分だけパッケージにしたもの。実験結果を円滑に得るために調整済のバッファー・試薬が含まれ、それに応じた専用プロトコールが添付されていることが多い。
kb (単位)
2本鎖DNAの長さの単位bpの1000倍を示すkを付加したもの。1 kb=1000 bp
T
tagmentase
タグメンテーション反応(DNAへのDNA断片挿入反応)に使用可能な高活性Tn5 transposaseの商品名。挿入断片をあらかじめ保持しているもの(loaded)と自分で挿入断片の組み込みを行うもの(unloaded)がある。次世代シーケンス用ライブラリー調製、ATAC-seqなどに利用される。
U
UDI
次世代シーケンスのライブラリー調製の際、マルチプレックス化対応のために用いるインデックスで、i5/i7に全て異なる配列が使用されているため、インデックスホッピングによって誤ってインデックスが付加された場合でも解析時に識別して除去することが可能なインデックス。

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