CUT & Tag法とは
CUT&Tag(Cleavage Under Targets and Tagmentation)とは、タンパク質とゲノムの相互作用を研究するための新しいテクノロジーで、Kaya-Okur HS et al., Nature Commun. 2019にて紹介されている効率的なクロマチンプロファイリングの手法です。
この手法はイムノテザリングと呼ばれ、修飾酵素を目的の抗体にテザリング(係留)して周辺DNAを切り出す手法で、近年CUT & RUN (Cleavage Under Targets and Release Under Nucleases)と共に注目を集めています。
CUT&Tagでは、プロテインAと改変組換えTn5トランスポザーゼを融合させたpA-Tn5トランスポザーゼを使用し、抗体によって認識されたクロマチンや転写因子の近傍のDNA配列を精度よく選択的に濃縮し、シーケンスアダプターを挿入することが可能となります。
クロマチン免疫沈降 (ChIP)

CUT & Tag 法

CUT & Tagプロセスの概要
まずサンプルから単離された核をレクチンコートされたビーズ上に固定化します。
続いてクロマチンを特異的な抗体によって標識したのち、2次抗体と共にインキュベートし、さらにシーケンスアダプターをロードしたプロテインA-Tn5トランスポゼースと結合します。
トランスポゼースをMg+により活性化することによってトランスポソームにロードされた配列の挿入が起こり、クロマチンに相互作用しているDNAのシーケンスライブラリーを簡単かつ効率的に生成することが可能です。得られた断片にシーケンス用のアダプターを追加で付加する作業は必要ありません。
したがって、生細胞からシーケンス可能なライブラリー調製までの全プロセスは、ベンチトップの単一チューブまたはハイスループットパイプラインのマイクロウェルで完了させることができます。
CUT & Tag法のメリット
ChIP-seqと比較して、CUT&Tagは
- 物理的に少ない細胞インプット量からのデータ取得が可能
- ライブラリー調製が劇的に簡略化され、操作時間が短い
- 高いS/N比
- 優れた再現性
という大きな利点があり、特に初期胚発生、幹細胞、腫瘍などのエピジェネティクス研究に適しています。
特にCUT&Tag法では、目的のヒストンマーク付近のDNAのみ抗体に係留したTn5トランスポゼースを介して特異的に濃縮するため、ChIP-seqと比較して少ないリード数で目的のデータを取得することができ、例えばベンチトップの次世代シーケンサーでも十分にカバレッジを得ることが可能になります。
欠点はTn5トランスポゼースのオフターゲット反応を軽減するためあらかじめサンプルから核を分離する必要がある点です。このため、核が安定しないサンプルや難しいサンプル、転写因子の解析などについてはイムノテザリング法の系が安定するまでCUT&RUN法を行うことも選択肢の一つと言えるでしょう。
CUT & Tagのアプリケーション
CUT&Tag法はChIP-seqに対していくつかの利点を有していますが、特にビーズとタグメンテーションの組み合わせによって、シングルセル解析に対応できることが注目に値します。
バルク細胞では見逃されるレア変動や分布についても、シングルセル分析を行うことにより、高解像度で解析・分類することが可能です。
従来ChIP-seqをシングルセルで行うことは非常に困難でしたが、CUT&Tag法はヒストンの翻訳後修飾状態のシングルセル解析のための使いやすい手段を提供します。
CUT&Tag法のアプリケーションへのさらなる進歩は、ATAC-seq、RNA-seq、メチロームのシングルセルデータを統合して解析するマルチオミクス解析によってもたらされる可能性があります。すでにscATAC-seqとscRNA-seqのマルチオミクス解析は広く行われており、イムノテザリング技術を使用したマルチオミクスの実現可能性の先例を提供しています。
DiagenodeのCUT&Tag酵素
Diagenodeでは、効率的なCUT&Tagアッセイ用のpA-Tn5 Transposase融合タンパク質を提供しています。さらに、CUT&TagでChIP-seqグレードの抗体をテストし、このアッセイにおいて高い性能を発揮できることを実証しています。
多サンプル処理への対応として、マルチプレックス用プライマーインデックス 24 SI for Tagmented librariesを用いることによって複数のサンプルを同時にシーケンスすることも可能です。
さらに、マルチプレックス化におけるインデックスホッピングが原因の他サンプル配列混入を排除する24 UDI for Tagmented librariesを用いることにより、より正確なマルチプレックスシーケンスが実現可能です。

グローバルサイトでご確認ください

Protein A-Tn5 Transposase (loaded)
pA-Tn5トランスポゼースは、CUT&Tagアッセイ用に開発された高活性Tn5トランスポゼースとプロテインAの融合タンパク質です。本品はシーケンスアダプターをトランスポゼース中にロード済みのloaded品となります。

Protein A-Tn5 Transposase (unloaded)
pA-Tn5トランスポゼースは、CUT&Tagアッセイ用に開発された高活性Tn5トランスポゼースとプロテインAの融合タンパク質です。本品はシーケンスアダプターがロードされておらず、ご自分でご希望の配列のアダプターをロードできるunloaded品です。

ChIP-seqグレード抗体
CUT&Tagアッセイの成功には特異性の高い抗体が不可欠です。すべてのDiagenode ChIP-seqグレードの抗体は、厳密な検証基準を使用して特異性が検証され、CUT&Tagでの高いパフォーマンスを保証します。

Rabbit IgG
ウサギ ネガティブコントロールIgGは、ウサギで作成された特定の抗体を使用して実行されるChIP、CUT&Tag、MeDIP、IF、その他の実験でのネガティブコントロールとしての使用を目的としています。

24 SI for ChIPmentation
CUT&Tagを含むタグメンテーション法にご使用になれる24種入りのシーケンス用シングルプライマーインデックスです。Illumina社製NGSによるシーケンシングに適合し、24サンプルまでのマルチプレックス化が可能となります。

24 UDI for Tagmented libraries - Set I
デュアルインデックスを用いたマルチプレックス化の際に生じるインデックスホッピングの影響を排除することが可能なユニークデュアルインデックスです。CUT&Tagを含むタグメンテーション法にご使用になれます。

Tagmentase (Tn5 transposase)
DiagenodeのTn5トランスポゼースは高いDNA切断と断片挿入活性を有しており、ATAC-seqやChIPmentationなど次世代シーケンスのライブラリー調製に力を発揮します。挿入するDNA断片は別添のため、実験の目的に応じて柔軟にご使用いただけます。

ChIPmentation Kit for Histones
ChIPmentation Kit for HistonesはChIPmentationを用いてChIP-seqを行うために必要な試薬を含むオールインワンのキットです。ヒストンマークに対するChIP-seqを行う方に最適なキットです。

TAG Kit for ChIPmentation
ChIPmentationは、クロマチン免疫沈降で得られたクロマチンDNAにワンステップで酵素的に(Tn5トランスポゼース活性)シーケンスプライマーを導入できるライブラリー調製法です。このTAG kitはタグメンテーション部に使用していただける柔軟性の高いキットです。