細胞・組織を扱う分子生物学研究において欠かせない工程が超音波による細胞の可溶化(ホモジナイズ)、およびDNAの機械的断片化(せん断)です。様々な実験手法において、最適な実験結果を得るためには目的に合った超音波破砕装置(ソニケーター)を選択することが望まれます。
ここでは、ソニケーターの幅広いアプリケーションと、それぞれの実験手法における実験上のヒントをご紹介いたします。
DNA断片を調製する
DNAの断片化作業の主な用途として、ゲノムDNAからのライブラリー調製が挙げられます。長鎖ゲノムDNAの断片化にはソニケーターを用いた超音波によるDNAのせん断が多く用いられます。配列中のランダムな位置に任意の断片を得られ、さまざまに重複したフラグメントを得ることが可能なためです。
NGS・次世代シーケンス解析
ライブラリー構築に必要なDNA断片の鎖長範囲は実験手法に応じて様々ですが、次世代シーケンス解析に使用するシーケンシングライブラリーでは一度に解読可能な鎖長に合わせて200~600塩基の鎖長範囲の断片を調製します。
得られる鎖長範囲内のDNA断片がなるべく多くの情報を持つよう、鎖長範囲内のDNA収率が高くなるよう断片化条件を充分に検討することが必要となります。
同時に、一度設定した断片化条件が再現性良く繰り返すことができる実験系を構築することも処理サンプル数を増やしたり処理量を増やすうえで重要です。
Picoruptor 2
DiagenodeのPicoruptor 2は、発振した超音波の伝播経路上でチューブホルダーが回転することにより、各サンプルチューブに均一な超音波エネルギーが伝達されるため、正確で偏りのないDNA断片化を行うことが可能になっています。 また、高性能な冷却システムが超音波の発振タイミングと連動して働くため、温度が精密にコントロールされ、インタクトなエピトープが保存されたクロマチンDNA断片を得ることができます。
こちらもご覧ください
プロトコール:Picoruptor2を用いたDNA断片化ガイド
クロマチン免疫沈降
ヒストンタンパク質にゲノムDNAが巻き付いた染色体の構造はクロマチンと呼ばれ、そのクロマチンの状態が遺伝子の発現調節に関わっていることが明らかとなっています。
クロマチンDNAを分析することのできる実験手法がクロマチン免疫沈降(ChIP)です。ホルマリンでDNAとヒストンなどのDNA結合タンパク質を架橋した後、超音波処理によってDNAを断片化し、可溶性のクロマチンにします。
クロマチンDNAの最適なサンプル条件は
- クロマチン断片サイズの分布が均質で、
- 目的の断片が目的外のエピトープやDNA配列を含まず、かつ
- 短すぎてシグナルを示さない断片を含まない
ことが重要です。
均質なサイズのDNA断片を得るためには正確かつ均一な超音波処理条件が必要です。
また、熱からヒストンタンパク質や転写因子上のエピトープを保護し、抗体によるプルダウン効率を最大化するため、冷却装置による温度調節が不可欠です。
RNA断片化
RNA-seqは発現解析の主要な実験手法となっていますが、インタクトなRNAの分離は、高品質なRNA-seqのライブラリー調製に不可欠です。収率良くRNAを確保するには、組織の効率的な破砕とホモジナイズが必要です。破砕によりRNAが放出され、ホモジナイズによりサンプルの粘度が低下し、RNA精製が容易になります。
また、調製したRNAからライブラリーを構築するため、RNAの断片化を行います。得られたRNA断片からランダムプライマーでcDNAを合成し、得られたcDNAをインサートとしてライブラリーを構築します。
Picoruptorを用いることにより、RNAの抽出作業とRNA断片の調製作業の両方を行っていただくことが可能です。
組織や細胞からのタンパク質抽出
ソニケーターのもう一つの最大の用途として、組織または細胞、酵母、細菌を破砕・可溶化し、タンパク質を抽出することが挙げられます。PAGE、ウェスタンブロッティング、質量分析、タンパク質精製など、さらに下流のタンパク質の特性評価には、高品質なタンパク質を収量良く得ることが重要です。
DiagenodeのPicoruptorを使用すると組織・培養細胞の効率的な破壊とホモジナイズがワンステップで行われ、高品質のタンパク質が得られます。
質量分析を用いたプロテオミクス解析サンプル調製
Preomix社のiSTキットは質量分析法を用いたプロテオーム解析のソリューションです。細胞破砕からタンパク質抽出、タンパク質の還元・アルキル化処理、プロテアーゼ処理を経てLC/MSで測定できるサンプルを短時間で調製・精製できます。 DiagenodeではPicoruptorで使用可能なiSTキットでのタンパク質抽出用のチューブホルダーを用意いたしました。これを使用することによって、少ないサンプルからより多くのタンパク質・ペプチドを抽出・同定していただくことが可能です。
Megaruptor3のハイドロポアシアリング
PacBio®やOxford Nanopore™テクノロジーといったプラットフォームはリード長10~40 kbとロングリードが可能で、de novoゲノム解析やリピート配列のシーケンスに適しています。ロングリードのプラットフォームでは20~100 kbのDNA断片が必要となります。 Megaruptor3は密閉系のハイドロポアシリンジを用いることにより、DNA溶液の組成に影響されることなく安定的に再現性良く5~100 kbの長鎖DNA断片を調製することが可能です。
Megaruptor 3デモ依頼はこちら
Megaruptorをご自分の環境で試しに使用されたい方に、Megaruptor 3のデモ機をご用意しております。デモ機をご利用になりたい方は、下のリンクをクリック、必要事項をご記入ください。