ChIP-qPCRは、クロマチン免疫沈降で得られたDNAをqPCRを用いて定量することにより、既知のゲノム上のタンパク質結合部位でのタンパク質-DNA相互作用の有無を定量的に評価できる手法です。
クロマチン免疫沈降では細胞や組織内でDNAと結合したクロマチンや転写因子をホルムアルデヒドなどでクロスリンクし、免疫沈降によって共沈させます。
共沈して得られたDNA断片を精製し、qPCRで定量することによってクロマチンや転写因子に結合した特定の塩基配列のDNA断片の量の変化を調べることができます。
ChIP-qPCR(グローバルサイトにリンクします)は、異なる実験条件にわたって特定の遺伝子および調節領域に焦点を当てた研究に有利な実験法です。
ChIP-qPCRで得られるクロマチンDNAの定量データは、クロマチンの量、免疫沈降の効率、およびDNA回収の手順上などで生じるバックグラウンドを適切に処理することによって、正規化し比較可能なデータにする必要があります。
ここでは、ChIP-qPCRデータを正規化するために使用される一般的な方法、すなわちパーセントインプット法について説明します。
パーセントインプット(%input)法
パーセントインプット(%input)とは、元のサンプル中のDNA量に対する、抗体によって沈殿したクロマチンDNAの割合を示します。
ChIPにおけるインプット(input)サンプルとは、全てのChIP手順から免疫沈降を除いた手順を経て調製したトータルDNAです。
インプットサンプルは、ChIPで使用されたクロマチンの量を表し、パーセントインプットを計算するためのコントロールとして使用されます。
パーセントインプット法では、ChIPから得られたシグナルをインプットサンプルから得られたシグナルによって除算します。
ChIP-qPCRを行う際は、qPCRデータを常にインプットと比較し、得られた収量データを免疫沈降による回収率として分析するほうが好ましい結果が得られます。
これは、インプットと比較することによって、目的外の物質によるバックグラウンドとChIP処理したクロマチン自身に起因する誤差の双方に対する補正・正規化を含むからです。
なぜパーセントインプット法が適しているのでしょうか。
正規化の方法として、この他に抗体による目的のタンパク質と対照タンパク質(例えばIgG)の免疫沈降の度合いの差を見るFold enrichment法があります。
例を挙げてこれらを比較します:
異なるサンプル中のDNA量を絶対定量した結果を以下の通りとします。
処理なしインプットサンプル:10μg
処理なしChIPサンプル:1ug
処理なしChIP IgG(ノイズ):0.05μg
処理有インプットサンプル:8μg
処理有ChIPサンプル:0.2μg
処理有ChIP IgG(ノイズ):0.01μg
パーセントインプット法を使用すると、
処理なし%インプット= 1μg / 10μg = 10%
処理有 %インプット= 0.2μg / 8μg = 4%
○結論:処理によってタンパク質のDNAへの結合は減少した
得られたシグナルをFold enrichment法で計算すると
処理なし(ChIPサンプル/ノイズ)= 1μg / 0.05μg = 20倍
処理有 (ChIPサンプル/ノイズ)=0.2μg/0.01μg= 20倍
○結論:変化なし
Fold enrichment法の問題は、生物学的意味を持たないノイズが過大に結果に影響を与え、結論が変わってしまうことがこれでわかります。
パーセントインプット法は、計測するDNAの量を増やせることにより、定量性があり、偽陽性が出にくい正規化方法であることがわかります。
逆に2か所のゲノム上の部位を比較するときは2種の抗体を使用することとなり免疫沈降の度合いが違うため、Fold enrichment法を並行して使用することを検討してください。
有意なデータが得られるよう、正規化の手段として適切な方法を選択して実験を計画することが重要です。
qPCRは最低2回以上、潜在的な外れ値を同定することができるようにするために3重測定を実行することをお勧めします。
結果の図示について
ChIP実験結果はネガティブコントロール抗体およびプライマーで測定されたバックグラウンドと、標準誤差とを共に図示されることをお勧めします。
こちらもご覧ください
ChIP-qPCR実験で再現性のある結果を得るのに重要な鍵となる要素は、断片化処理、抗体の品質、およびプロトコルです。
このことより、以下の3点:
穏和な条件で超音波処理を行うこと(200-600 bpが適当)
ChIPグレードの特異性の高い抗体を使用
実験で検証済のプロトコル/キットを用いること
に留意して実験を行うことが重要です。
このような点を考慮しても、既存キットを使用して実験系を立ち上げることは有用です。DiagenodeのiDeal ChIP-qPCR キット(C01010180)(グローバルサイトにリンクします)は優れた特異性と感度を持つChIP-qPCR アッセイ用に最適化されています。高度に検証されたChIPグレード抗体と一緒に使用することで、優れた再現性のある結果を提供します。
iDeal ChIP-qPCRキットは、ネガティブコントロールとなるウサギIgGを添付していますので、目的のエピトープに対する抗体とプライマーを準備するだけで実験を開始していただくことが可能です。
繰り返しの実験で試薬が無くなってしまった場合でも、ChIP-kit Customizer(グローバルサイトにリンクします)で無くなった試薬だけを補充することができ、大変経済的にご利用いただけます。
ChIPキットマニュアル
iDeal ChIP qPCRキット マニュアル
DiagenodeではChIP-qPCRのキットとしてiDeal ChIP qPCRキットをご用意しており、簡単に実験に取り掛かっていただけます。こちらからマニュアルをダウンロードしていただけます。
iDeal ChIP-seq kit for Histones マニュアル
ChIPで精製したDNAから次世代シーケンス用ChIP-seqのキットもご用意しております。本キットはヒストンの分析に最適のキットです。こちらからマニュアルをダウンロードしていただけます。