ChIP-seq (25)
【FAQ】ChIPの出発細胞数はゲノムサイズに応じて変える?
通常、細胞数をゲノムサイズに応じて増減する必要はありません。ほとんどの真核生物種では同じサンプル量で処理できます。もちろん、酵母や、細菌のDNAに結合したタンパク質にChIPを適用する場合は細胞数を増やすことも可能です。
植物の場合は、必要な組織の量は必ずしもゲノムサイズによらず、むしろ核/クロマチンの全体的な量によって異なるため、サンプルに応じて出発物質量は50mgから2gまでさまざまであることが多いです。Diagenodeでは植物の多様性に対応し使用できる作業フローを確立し、キット化していますので、これらキットもお試しください。
Universal Plant ChIP-seq kit (https://www.diagenode.com/en/p/universal-plant-chip-seq-kit-x24-24-rxns)
EasyShear Kit for Plant (https://www.diagenode.com/en/p/chromatin-shearing-plant-chip-seq-kit)
【FAQ】クロマチンのせん断サイズは500bpでよい?
ChIP、およびライブラリー作製のワークフローはより小さな断片が濃縮されるようなフローとなっております。
これに加え、Illuminaのフローセル上ではライブラリー断片が小さいほうがクラスター形成の効率が高いです。
これらの効果によって大きなサイズのクロマチン分画とのバランスを保っているので、十分良好なカバレッジと分解能が得られます。
【FAQ】CUT&Tagのオフターゲット効果
pA-Tn5トランスポザーゼ融合タンパク質は、目的の分子を認識する抗体に結合し、適切な洗浄ステップ後、Mg++イオンの添加後にタグメンテーション活性の活性化が起こるので、オフターゲットは最小限であることが期待されます。
【FAQ】Tn5 transposaseの切断部位
切断部位のタンパク質からの距離について明確な値は知られていませんが、アダプター配列およびインデックス配列を含めて150~2000bpの範囲内のライブラリーが通常得られています。
Tn5トランスポザーゼ作用後のほとんどのDNA断片長は約500bpですが、これはゲノムのエピジェネティックマークやサンプルの種類によって異なる場合があります。
【FAQ】CUT&Tagで配列バイアスはかかる?
CUT&Tagライブラリー作製では、目的の標的に対する一次抗体の結合部位に連関する配列がターゲットで、Tn5による断片化部位の配列は比較的重要ではないため、バイアスは無視できます。
ChIPと比較して、ヒストンマーク特異的な結合の検出感度が高くなるので、ChIPよりも少ない細胞を使って実験することができます。
【FAQ】植物サンプルのタグメンテーション
残念なことに、植物から核を単離するための検証済みのLysis試薬は弊社では有しておりません。
弊社のATAC-seqキット附属の核単離試薬を用いて植物のATAC-seqを行い、非常に良好な結果を確認しておりますが、正確な分離プロトコールを植物試料タイプごとに確立する必要があると考えられます。
【FAQ】ライブラリー定量にBioanalyzer?
KAPA Library Quantification kitを用いた定量法をご使用ください。
KAPA Library Quantificationはタグが付けられ、かつアダプターを有する断片のみを増幅し、濃度を正確に算出できます。
バイオアナライザーだけでは、サンプルの量を正確に反映できない場合があります。
【FAQ】ライブラリー定量にQubit?
Qubitで算出されるDNA量の単位は、ng/μLの濃度になるため、断片サイズを測定する方法を加えないと、ライブラリーによく使われるnMとして使用する上での理由づけが難しい場合があります。
もうひとつの潜在的な問題は、検出原理的にアダプターダイマーが定量サンプル中に検出されうることであり、これがQubitの結果に偏りを与える可能性があります。
【FAQ】CUT&Tagのネガコンはシーケンスする?
CUT&TagでのIgGは主に、実験の質を検証するためのネガティブコントロールとして使われています。
IgGで取得したデータはバックグラウンド情報として利用することはできますが、塩基配列を決定する必要はありませんが、その後の実験で必要であればシーケンスを決定することも可能です。
【FAQ】CUT&Tagのデータ正規化法
古いプロトコルでは、pA-Tn5融合タンパク質に混入している大腸菌DNAをspike-in DNAとして用いることが推奨されていますが、DiagenodeのpA-Tn5は大腸菌DNAの汚染がないため、この方法は提案していません。
通常、サンプル間で等しい数のインプット細胞数があることを確認する方法をお勧めしています。
正規化は、データ解析時に読み取り深度(カバレッジ)の相対値を計算することによって得ることも可能です。各サンプルからの読み取り値は、100万人あたりのカウントに正規化されます。
Genome Biol 23, 144 (2022). https://doi.org/10.1186/s13059-022-02707-w
【FAQ】CUT&TagでATACシグナルが混入することはある?
ATAC-Seqプロファイルは一般にヌクレオソームのラダーのように見えるため、CUT&Tag実験では適切な陽性コントロールを用いて識別できるようにすることが有用です。
ポジティブコントロールとしては、シグナルがATAC-seqシグナルと被りにくいH3K27me3が特に適しています。H3K4はATAC-seqシグナルに類似しているため、避けたほうが良いでしょう。
また、CUT&Tagでは、pA-Tn5活性を厳密に制御することによって、ATAC-seqシグナルが問題となることを回避できます。
洗浄によって非結合型の酵素を反応溶液から除去した上で、Mg2+を添加して抗体結合型pA-Tn5の活性化を行うことが可能なため、ATAC-seqシグナルを最小化することが可能です。
また、ATAC-seq Signalと反相関するH3K27me3陽性対照(および対照プライマー)をコントロール実験として含めることで、ATAC由来の異常なシグナルを検出することが可能です。
【FAQ】ChIP-seqで測定するインプットサンプルについて
ChIP-seqとChIP-qPCRでのゴールドスタンダードは、サンプルごとに1つのインプットを測定することです。同じサンプル中の複数のChIPターゲットについては、同じインプットで参照できます。
場合によっては、シーケンスのコストを削減するために、複数のインプットをプールすることが合理的です。
これは、サンプルがどの程度類似しているかによって異なり、例えば培養細胞の場合、細胞の生物学的グループごとに1 つのインプットが一般的に使用されます。
【FAQ】ChIP-seqで使用するネガコン
IgGサンプルは通常ChIP-seqでは使用されることは少ないです。
IgGサンプルはqPCRを実施した際のバックグラウンドレベルの推定に使用できるほか、ChIPにおけるQCの練習に適しています。
それに対し、インプットサンプルはqPCR、シーケンス双方で重要なデータが得られます。
ほとんどの一般的なChIP解析のパイプラインでインプットサンプルがデータの正規化に使用されています。
【FAQ】未知の結合部位の濃縮率を求めるには
もし、免疫沈降で濃縮したいタンパク質がどこに結合するのかについての情報がない場合、ChIP-seqで得られるNGSのピーク情報や配列情報以外の確実なアウトプットはありません。
まず確認できることとしては、既知のターゲットに対する抗体をポジティブコントロールとし、プロトコールが正常に行われているかについて確認してみることができます。この場合、抗体がおのずと異なるため、目的のタンパク質については確認できません。
また、qPCRプライマーデザインを行うために、目的タンパク質の結合モチーフの情報があればそれを利用する方法もあります。
もし実験に使用しているサンプルや類似サンプルで一度でもChIP-seqのデータが取得できた場合は、その実験結果を基にqPCRのプライマーデザインを行い、その後の同じ実験系で濃縮率を反映するか確認していくことも可能です。
Diagenode ChIP-seq受託解析サービスでは、シーケンスによるChIP実験結果の検証を行っておりますので、qPCRプライマーについても確実に設計できます。
【FAQ】転写因子のChIPで使用できるポジコンについて
CTCFは、十分に特徴づけられたピークと結合部位を持っているため、転写因子に対して最も使用されているポジティブコントロールの1つです。
この他に一般的に使用されているポジティブコントロールはRNAPolIIです。
ChIPで強力に機能する他の十分に特徴づけられたターゲットと対応する抗体がある場合は、それを使用することも可能です。
【FAQ】Total H3はポジコンに使えますか?
H3K4me3が対象のターゲットである場合、追加のポジティブコントロールは必要ありません。
H3K27acも、非常にアクティブなプロモーターおよびエンハンサーサイトに見られる優れたコントロールターゲットです。
H3-ChIPは可能ですが、H3はクロマチン中に遍在するため非常に広い分布が得られる結果となり、ChIPの修飾特異性のコントロールとしては最適ではありません。
【FAQ】ChIP-seqに必要なクロマチン量
必要なサンプル量の見積について、吸光度が必ずしもサンプル量を反映しないことより、弊社ではDNA濃度を使用せず、細胞数や組織のmg数で見積を行うことを推奨します。
その前提のもとで、弊社のμChIPmentationおよびTrue MicroChIP Kitのワークフローを用いたヒストンの解析の場合では一回の免疫沈降当たり10000個以上の細胞数で開始することを推奨しています。
より少ないサンプル量からのChIP実験の場合、異なるワークフローの組み合わせが有効な場合があります。サンプルの種類とChIPのターゲットを含むプロジェクトの簡単な概要をcustomer.support@diagenode.comまでお知らせいただければ、弊社R&Dチームが最適な方法についてご提案させていただきます。
【FAQ】ChIP-seqのポジコンの選び方
免疫沈降によりヒストンが適切に濃縮されているかのポジティブコントロールとして使用する場合は、目的のヒストンマークと同じような挙動を示すヒストンマークを使用することを推奨します。
例えばH3K4me3(ヒストンのChIPでの標準的なマーク)か、H3K27me3が適切です。
H3は広範なゲノム領域を沈殿し、インプットのようなシグナルが得られます。
また、H3K4me3ではシャープなピークが得られるため、qPCRでも簡単に検出でき、ChIPのポジコンとして最適です。
【FAQ】ChIL-seqを様々なサンプルで試したいが
ChIL-seqは幅広いサンプルとターゲットを対象に使用できる手法ですが、サンプルの種類に応じて最適な結果を得るためにはChIPと同様、固定化・クロスリンク条件と細胞透過処理に若干の最適化検討が必要のようです。
植物を対象にしたChIL(クロマチン免疫標識法)関連研究については下の論文もご参考にしていただければ幸いです。
Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S., and *Matsunaga, S.
Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance.
Nature Commun., 11, 5914 (2020)
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19621-z
【FAQ】ChILプローブの蛍光標識について
ChIL-seq法はChIL-probeと呼ばれる二次抗体をコンジュゲートしたオリゴヌクレオチドプローブを主構成要素とする実験手法で、少量の細胞から免疫沈降を介さずにシグナルが得られます。
このChILプローブはT7 RNA polymeraseプロモーター配列+シーケンスライブラリー用プライマー配列+Tn5 transposase(トランスポゼース)Mosaic End配列を有する2本鎖DNAと抗体とのコンジュゲートで、ターゲットタンパク質と結合してTn5 transposaseの添加によって近傍に配列を挿入し、さらにT7 RNA polymeraseの添加により挿入部位を起点としてRNAを転写します。
ChIL-seqではChILプローブに付加された蛍光標識(TAMRA)は必須ではありませんが、実験プロトコール中で品質管理に使用できるほか、免疫蛍光イメージングによって固定細胞中タンパク質の局在を可視化することができます。
【FAQ】ChIPmentationとシングルセルシーケンシング
CUT&Tagについて、ダイアジェノードではシングルセルレベルでの実験の可否はまだ確認できておりませんが、Nature CommunicationでscCUT&Tagへの適用が報告されているほか、続報が報告されています。
CUT&Tag for efficient epigenomic profiling of small samples and single cells
現在のところ、弊社では最小10,000細胞から得られた調製済みクロマチンに使用できるキット(μChIPmentation)をご用意しております。
【FAQ】ChIP-seqに必要なリード数について
これは、目的のタンパク質によって異なります。鋭いピークを持つヒストン修飾の場合は3,000万リード(H3K4m3)、ピーク幅が広く量が多いもの(H3K27m3など)の場合、約5,000万リードが推奨されます。
【FAQ】シーケンスのマルチプレックス化について
シーケンシングをマルチプレックス化することにより、定量・精製後の個々の調製済ライブラリーを任意のモル比でプールし、同時に分析することができます。
プールされているライブラリは、異なる配列のバーコードを導入したインデックスプライマーを用いて調製する必要があり、インサートの平均サイズも同様である必要があります。
【FAQ】ChIP-seqに必要なリード長とシーケンス深度
リード長はサンプルの種類、実験目的及びシーケンスカバレッジの要件に応じて選びます。
長いリード長は、よりシーケンスのオーバーラップを生じる方向に働くためゲノムのde novoシーケンスや繰り返し領域の解読の信頼性を高めるのに大変有用です。de novoシーケンスでは150bpのリード長で推定ゲノムサイズの30~100倍程度のデータを一般に取得します。
発現プロファイル解析や発現計数などのアプリケーションの場合、短いリード長でも十分でコスト的にも優位です。
ほとんどのChIP-seq実験ではリード長は50 bpで十分です。リード数は目的のタンパク質によって異なりますが、鋭いピークを持つヒストン修飾の場合は3,000万リード(H3K4m3)、ピーク幅が広く量が多いもの(H3K27m3など)の場合、約5,000万リードが推奨されます。
【FAQ】ChIP-qPCRとChIP-seqについて
ChIP-qPCRはしばしば濃縮度の低いIPサンプルに対しても分析可能な場合がありますが、ChIP-seqは大量のデータが分析の結果として生じるため、S/N比を向上させ、信頼性の高いデータを得るために濃縮度の高いIPサンプルが必要です。
そのため、ChIP-qPCRで使用可能な抗体の中には、ChIP-seqで使用した時に十分な濃縮度が得られず推奨できないものが含まれる場合があります。
しかしながら、一般的にChIP-qPCRでよい結果が得られている場合、ChIP-seqでも十分なシーケンス結果を得ることは可能です。
逆にChIP-seqでよい結果が得られているにもかかわらず、低品質のプライマーや未知のアニール部位のためにqPCRがうまくいかず、ChIP-qPCRの結果が良くないケースも見られますので、そのような場合はqPCRの系が機能しているか十分再検討することをお勧めします。